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Vol.2 優雅な田舎に心ときめく 唯一無二の翡翠時間

2009/03/25

 大分県・長湯温泉 宿房 翡翠之庄

 




ここ翡翠之庄に初めて訪れたのは今から16年前、門からアプローチにかけての風情、茅葺き屋根が特徴的な母屋、敷居をまたいだ後の得も言われぬ凛とした空気間に、知らず知らず、襟を正した記憶が昨日のことのようによみがえる。以来、幾度となく投宿の機会を得た。年齢を重ねるほどに、この宿の魅力に引き込まれていく自分を発見した。





16年前からずっと、茅に虫がつかないように、とかかさず慰撫され続けられた茅は、黒光りをたたえるほどの風合いが醸し出されている。また、釘を使わない工法により組み上げられた巨大な梁にも、優しげな艶による年月を感じる。建築物にも年月により備わる風格があることを知らされる。いやはや、仕事柄幾多の宿を伺ったが、このロビーが持つ柔らかくも重々しい歓迎感は、なかなかお目にかかれない代物である。





そもそもこちらは、現代の名工と呼ばれる7名の棟梁が腕を競い合うかのように建てられた建築物がウリだった。いやもちろん今でもウリなのだが、それよりも、今や私の楽しみは料理と化している。というのも、あまり取りざたされていないのだが、オーナーである首藤文彦氏の前身は、ペニンシュラホテルのシェフにまで上り詰めた料理人だったのだ。





自家菜園や地元でのとれたて野菜を使ったメニューや自社の工房で手作りしたハムやローストビーフ、頭からカリカリと味わえるエノハ(ヤマメ)の唐揚げや、締めにでてくるエノハ茶漬けは、何度食しても飽きない逸品なのである。また、朝食も絞り立ての牛乳や、湯豆腐・ホウバ味噌など、普段は決してあり得ない朝食のおかわりも、ごく自然な行為となっている。独自性豊かなメニュー、それらを彩る器、何度味わっても、こちらでの食事時間は至福と呼ぶにふさわしい。





小さなところまで本物にこだわった「翡翠時間」を堪能しているつもりだが、本当はまだまだ、私ごときの目利きでは役不足なのかもしれない。



 

大分県・長湯温泉 宿房 翡翠之庄

[所在地]大分県竹田市直入町長湯くたみヶ丘
[電話]0974-75-2300